「相続した土地を、国が引き取ってくれる制度があるらしい」——ご相談の中で、ときどきこの話が出ます。相続土地国庫帰属制度という、2023年(令和5年)4月27日に始まった仕組みのことです。
使えるなら、たしかに有力な選択肢です。ただ、始まってから3年が経ち、法務省から実際の運用の数字が公表されるようになりました。この記事では、その数字を見ながら「どんな土地なら通るのか」「いくらかかるのか」を、できるだけ具体的に整理します。結論を先に言うと、いちばん誤解されているのは費用の部分です。
まず、制度のしくみを3分で
大まかな流れは3ステップです。
- ① 申請する——相続または相続人への遺贈で土地を取得した方が、土地のある地域を管轄する法務局に申請します。審査手数料は土地1筆あたり14,000円です
- ② 審査を受ける——書面審査に加えて、法務局の職員による実地調査が行われます
- ③ 負担金を納める——承認されると負担金の通知が届き、通知が届いた日の翌日から30日以内に納付します。納めた時点で所有権が国に移ります。名義変更の登記は国がやってくれます
制度が始まる前に相続した土地でも対象になります。「祖父の代から名義がそのまま」という土地でも申請自体は可能です。共有地の場合は、共有者全員でそろって申請する必要があります。
3年で、どれくらい使われているのか
法務省が公表している運用状況(令和8年7月31日現在)は、次のとおりです。
| 申請件数 | 5,863件 |
|---|---|
| 国庫に帰属した件数 | 3,008件 |
| 却下 | 85件 |
| 不承認 | 96件 |
| 取下げ | 1,102件 |
この数字の読み方で大事なのは、「断られた」件数が意外に少ないことです。却下85件と不承認96件を足しても181件で、申請全体の3%ほどしかありません。
そのかわり目立つのが取下げの1,102件です。申請のおよそ5件に1件が、審査の途中で申請者自身によって取り下げられています。理由は公表されていませんが、審査の過程で「このままでは通らない」「思ったより負担金が高い」と分かって引っ込めた、というケースが相当数含まれていると考えるのが自然です。門前払いされる制度というより、走り出してから止まる人が多い制度だと言えます。
残りのおよそ1,500件は、現在も審査が進行中の分です。
地目によって、ずいぶん景色が違います
同じ統計を、土地の種類別に見てみます。
| 申請(地目別) | 田・畑 2,278件 / 宅地 2,040件 / 山林 893件 / その他 652件 |
|---|---|
| 帰属(種目別) | 宅地 1,115件 / 農用地 964件 / 森林 199件 / その他 730件 |
申請では田・畑がいちばん多く、実際に国のものになった数では宅地が最も多い。そして森林(山林)は、申請893件に対して帰属199件と、ほかの区分にくらべて数字が伸びていません。
いちばんの誤解は「タダで引き取ってもらえる」
ここが本題です。この制度はお金を払って手放す制度です。よく「負担金20万円」と紹介されますが、20万円で済むのは条件がそろったときだけで、例外のほうが広いケースがあります。
| 宅地 | 原則20万円(面積にかかわらず)。ただし市街化区域または用途地域が指定されている地域内の宅地は面積に応じた計算になり、100㎡で548,000円、200㎡で793,000円。 |
|---|---|
| 田・畑 | 原則20万円。ただし市街化区域・用途地域内、農用地区域内(いわゆる「青地」)、土地改良事業の施行区域内の農地は面積に応じた計算に。1,000㎡で1,128,000円、2,000㎡で1,868,000円。1反(991㎡)でおよそ112万円、1町(9,917㎡)でおよそ695万円です。 |
| 森林 | 原則20万円という枠がなく、常に面積に応じた計算。3,000㎡で299,000円、12,000㎡で383,000円、50,000㎡で611,000円。 |
| その他 (雑種地・原野など) |
面積にかかわらず20万円。 |
注目していただきたいのは田・畑の欄です。青地(農用地区域内の農地)は、農業以外の使い方が原則できないため「手放したい」と思われやすい土地ですが、その青地こそが面積に応じた計算の対象になります。1反の田んぼで約112万円。「20万円で引き取ってもらえると思っていた」という方が、審査の途中で取り下げる——先ほどの1,102件の中には、こうしたケースも含まれているはずです。
逆に、面積が大きくても森林は金額の伸びがゆるやかなのが特徴です(5haで約61万円)。ただし森林は、あとで触れるとおり承認のハードル自体が高めです。
なお、負担金の計算に使われる面積は登記簿に書かれている地積が基準です。実際より広く登記されている土地は、その広いほうの数字で計算されます。
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断られるのは、どんな土地か
法務省は、却下・不承認の理由も件数つきで公表しています(令和8年7月31日現在)。
却下(申請の段階で受け付けられなかったもの)の理由
- 添付書類が足りない —— 37件
- 境界が明らかでない・所有権に争いがある —— 23件
- 通路として使われている土地 —— 22件
- 申請できる立場の人ではなかった —— 10件
- 建物が建っている —— 4件
- 水道用地など —— 1件
不承認(審査の結果、引き取れないと判断されたもの)の理由
- 管理や処分のさまたげになる工作物などが地上にある —— 46件
- 国による造林・間伐などの整備が追加で必要な森林 —— 37件
- 災害の危険がある —— 11件
- 金銭債務の負担がある(土地改良区の賦課金など) —— 10件
- 一定の勾配・高さの崖がある —— 7件
- 使用や収益がさまたげられている —— 6件
- 通行権をさまたげている —— 4件
- 地下に除去が必要なものが埋まっている —— 3件
※1件の申請に複数の理由が当てはまることがあるため、理由の合計は件数と一致しません。
ここから見えてくることが3つあります。
ひとつめ。却下理由の最多は「添付書類が足りない」です。これは土地の問題ではなく、準備の問題です。裏を返せば、書類さえきちんとそろえれば防げる却下がかなりの割合を占めているということです。
ふたつめ。境界が明らかでない土地は通りません。相続した土地では「隣との境がどこか分からない」「杭が抜けている」ことが珍しくありませんが、この状態では申請が受け付けられません。測量や隣地の方との立ち会いが必要になり、そこで数十万円の費用と数か月の時間がかかります。
みっつめ。山林で目立つのが「国による整備が追加で必要な森林」37件です。長年手が入っていない山は、国から見ると引き取ったあとに造林や間伐の費用がかかる土地になります。「放置してきたから手放したい」という動機と、制度が求める条件がちょうど逆を向いてしまう、という構造です。
それでも申請するか、別の出口を探すか
ここまでを整理すると、相続土地国庫帰属制度は「手数料と負担金を払い、書類と境界を整えて、国に引き取ってもらう」制度です。買い手がどうしても見つからない土地にとっては、確実な出口になり得ます。実際に3,000件以上が国のものになっているのですから、機能している制度です。
一方で、次のような土地では、いったん立ち止まって比べてみる価値があります。
- 青地の田・畑をお持ちの場合——負担金が1反で約112万円。同じ土地に、農地のまま貸す・買い取ってもらうといった道が残っていないかを先に確認したほうが、金額の差が大きくなりがちです
- ある程度まとまった面積がある場合——電線や道路の条件しだいで、太陽光や蓄電池の用地として引き合いが出ることがあります。「山の中だから無理」と思われている土地でも、変電所との距離しだいで話が変わります
- 境界が分からない場合——どちらの道を選ぶにせよ測量は必要になることが多いので、費用をかける前に出口を決めておくと無駄がありません
正直に申し上げれば、どんな土地でも買い取れるわけではありません。条件が合わない土地は当然あります。ただ、「お金を払って手放す」と決める前に、「お金を受け取って手放す」道がないかを一度確認しておく——それだけで、結果がずいぶん変わることがあります。
まとめ
- 相続土地国庫帰属制度は実際に動いていて、令和8年7月31日現在で3,008件が国のものになっている
- 却下・不承認は全体の3%ほど。むしろ取下げが1,102件と多い
- 費用は「一律20万円」ではない。青地の農地は1反で約112万円、市街化区域の宅地も面積に応じた計算になる
- 却下理由の最多は書類の不備。境界が不明な土地は受け付けてもらえない
- 長年手が入っていない山林は、承認のハードルが高め
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