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名義が祖父のままの農地は、なぜ動かせないのか。「信託」解禁の検討と、いまできること

土地・相続

名義が、
祖父のままだった。

もりまる

「登記簿を取ってみたら、名義が祖父のままだった」「相続人は自分だけだと思っていたら、会ったこともない親戚が何人もいた」——農地のご相談で、いちばんよく出てくるのがこの話です。

農地は、名義が分かれてしまうと、貸すことも売ることも、自分ひとりでは決められなくなります。そして2026年8月、農林水産省がこの状況を変えるために「信託」という仕組みの解禁を検討している、と報じられました。

この記事では、なぜ相続を重ねた農地が動かせなくなるのか、いま国が何を検討しているのか、そして制度が決まるのを待たなくても今日からできることを、順番に整理します。

なぜ「名義が祖父のまま」が起きてしまうのか

理由はとてもはっきりしていて、長いあいだ、名義を書き換えなくても罰則がなかったからです。

法務局の名義を書き換える相続登記が義務になったのは、2024年4月1日からです。それより前は「やってもやらなくてもよい」ものでした。費用も手間もかかるうえ、農地は売れるあてもない。だから「とりあえずそのまま」で何十年も過ぎてしまった、というお宅がたくさんあります。

いまは、不動産を相続したことを知った日から3年以内に申請する必要があり、正当な理由なく期限を過ぎると10万円以下の過料の対象になることがあります。2024年4月1日より前に相続した分についても、2027年(令和9年)3月末までという期限が設けられています。「祖父の代から名義が変わっていない」に心当たりのある方は、ここが最初の一歩になります。

そして農地には、これとは別にもうひとつ手続きがあります。農地のある市町村の農業委員会(農地のことを扱う行政の組織です)への届出です。農地法の第3条の3で決められていて、期限は権利を取得したことを知ったときからおおむね10か月以内。こちらも10万円以下の過料の対象になることがあります。詳しくは農地を相続したら、まず何をすればいい?で書きました。

名義が分かれると、何ができなくなるのか

農地を貸す、売る、農業以外の使い方を考える。どれも「その土地に権利を持っている人」の合意がないと前に進みません。名義がひとりなら、その方が決めれば済みます。ところが相続のたびに、権利を持つ人は増えていきます。

おじいさん 1人 3人で共有 孫の代では 12人に うち2人は連絡先がわからない(灰色)
相続を重ねるほど、ひとつの農地に関わる人は増えていきます(イメージ図)

ここで効いてくるのが、「ひとりでも連絡がつかないと止まる」という点です。共有になっている農地を動かそうとすると、権利を持つ人たちに意向を確認する必要があります。海外に住んでいる、長く音信不通、すでに亡くなっていてさらに下の代に分かれている——そのどれか1つで、話は先に進まなくなります。

しかも相続登記がされていない農地では、まず「誰が権利者なのかを戸籍でたどって特定する作業」から始めることになります。私たちも土地のご相談を受けるなかで実際にこの調査をしますが、代が進んでいる案件では数か月かかることもあります。そして待っているあいだにも、相続人はまた増えていきます。

もりまる
「うちは兄弟仲がいいから大丈夫」でも、次の代は別
いま合意できている3人が、次の代では10人以上になります。会ったことのない従兄弟(いとこ)どうしで、遠くの畑の話をまとめるのは簡単ではありません。動かすかどうかを決めるのは後でも構いませんが、「誰の名義になっているか」を確かめるのは早いほうが楽です。

全国の農地の2割、106万ヘクタールが「持ち主がわからない」

これは、あなたのお宅だけの話ではありません。

農林水産省によると、2025年3月末時点で、所有者が分からない、または近くに住んでいない農地は106万ヘクタールにのぼります。これは全国の農地のおよそ2割にあたり、2017年3月末と比べて14%広がっています(日本経済新聞 2026年5月11日)。106万ヘクタールというのは、おおよそ岐阜県ひとつぶんの広さです。

国がこの問題を放っておけないのは、農地を担い手に集めて生産性を上げようとしても、権利者が分からない農地がところどころに挟まっていると、まとまった区画にできないからです。そして誰も耕さない農地は、そのまま荒れていきます。

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農水省が検討している「信託」の解禁 —— 2026年8月時点でわかっていること

信託とは、自分の財産を信頼できる相手に預けて、管理や運用を任せる仕組みのことです。預けた人(委託者)の名義ではなく、預かった側が管理し、そこから生まれた利益は決められた人が受け取ります。

ただ、農地はこれまでこの仕組みを自由には使えませんでした。農地法によって権利の移転が厳しく制限されていて、農地は原則として農業をする人にしか渡せないことになっているためです。農業をしない子どもや親族には、そもそも渡しにくい。その結果として、名義だけが人数分に分かれていく——という流れができてしまっていました。

2026年8月25日の日本経済新聞によると、農林水産省は次のような検討に入ったと報じられています。

  • 農地を農家以外の親族にも譲りやすくする方向で検討を始めた
  • その手段として「信託」の解禁が念頭にある
  • 権利の移転を規制している農地法の改正を視野に入れている
  • 贈与や相続の納税猶予の対象が広がる可能性があり、2027年度の税制改正要望に反映する
  • 具体的な中身は、年末にかけて政府・与党内で調整される見通し

ねらいは、相続のたびに権利が細かく分かれて話し合いすらまとまらない状態を防ぎ、耕作放棄地を増やさないことだとされています。

ここで大事な注意点をひとつ。これは「検討に入った」という段階の話で、2026年8月末の時点で制度が変わったわけではありません。いつから、どんな条件で使えるようになるのかは、まだ何も決まっていません。制度を待つより、いまご自身の農地がどういう状態かを確かめておくほうが確実です。

制度が決まるのを待たずに、いまできる3つのこと

難しいことではありません。どれも、農業の知識がなくてもできます。

  • ① 登記簿を取って、名義を確かめる——法務局の窓口かオンラインで、登記事項証明書を取ります。1通あたり数百円です。必要なのは住所ではなく「地番」ですが、毎年届く固定資産税の納税通知書に載っています。ここで「祖父の名前のまま」だと分かれば、それがスタート地点です
  • ② 農業委員会に、届出が済んでいるか聞く——農地のある市町村の農業委員会に電話で確認できます。登記(法務局)と届出(農業委員会)はまったく別の手続きなので、「登記したから大丈夫」とは限りません
  • ③ 相続人が増える前に、家族で話しておく——結論を出さなくても構いません。「あの畑をどうするか、いつか決めないとね」と共有しておくだけで、次の代の負担がまったく変わります

すでに権利者が分からなくなっている農地についても、手がまったくないわけではありません。農業委員会が所有者を探して公示するなどの手続きを経て、農地バンク(農地中間管理機構)が借り受けて地域の担い手に貸し出せる仕組みが用意されています(2026年8月時点)。まずは市町村の農業委員会に、現状を相談してみてください。

まとめ

農地が動かせなくなるのは、地主さんが悪いからではありません。長いあいだ名義を書き換えなくてよかった制度と、農地は農業をする人にしか渡せないという仕組みが重なった結果です。全国で106万ヘクタール、農地の2割という数字は、その積み重ねの大きさを表しています。

国はいま、「信託」という新しい入り口をつくる検討を始めています。ただ、決まるのは早くても年末以降です。それまでにできるのは、登記簿を1通取って、いまの名義を知っておくこと。ここから先の話は、それが分かってからで十分間に合います。

私たちは、名義が分かれた農地や、現地を見たことがない土地のご相談も受けています。「売る」と決めていない段階でも、書類が手元になくても大丈夫です。

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出典・参考

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